労働事件実務関係

「降格」のよくある誤解 #36

よく,経営者の方から,
人事権は会社にあるので,
降格させるのは自由ですよね?
という質問を受けます。

しかし,これは要注意です。

まず,降格にも種類が色々あり,
懲戒処分なのか人事権に基づくものなのか,
また,人事制度がどのような人事制度なのか,
職能給なのか職務給なのかなど,
前提条件によって,
いろいろなバリエーションがあるため,
要注意です。

まず,懲戒処分として,
降格させる場合は,
そもそも,懲戒処分として,
しっかりとした手続がとられているか,
懲戒の条件を満たしているか,
厳格にチェックしてから,
行う必要があります。

基本的に,
ハードルは高いと思っておくべきです。

また,懲戒処分としてではなく,
人事権に基づいて降格させる場合でも,
そもそも,人事制度が,
従業員の保有する能力に応じて,
人事評価を行っているような,
いわゆる職能給制の場合は,
原則,保有能力が失われるということは,
特別な事情がない限り,
考えづらいため,
その有効性は,
慎重に判断する必要があります。

次に,
人事制度が,
いわゆる職務給制の場合で,
役職を変更させた結果,
職務給が引き下がるような場合は,
基本的には,
誰をどこに,どのように配置するかは,
会社の裁量とされているので,
有効とされる可能性は高くなりますが,

その場合でも,
さらに,権利の濫用と判断されないように,
注意する必要があります。

たとえば,
降格について,
使用者側の業務上・組織上の必要性の有無・程度,
労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か,
労働者の受ける不利益の程度,
などを総合考慮して,
権利の濫用か否かが判断されますので,
職務給制の場合の降格でも,
必ずしも有効ではないということであり,
この点は,よく誤解されていますので,
注意が必要です。

労契法20条と定年後再雇用の誤解 #34

定年後再雇用は,
最近,いろいろなところで,
トラブルが多発しております。

そこで,今日は,
一つ,ポイントを整理してみたいと思います。

まず,結論である,ポイントを3つ。

定年後再雇用であれば,
理由なく賃金額を下げてよい,
というわけではないことに注意。


労働契約法20条の規定する
「期間の定めがあること」による
不合理な労働条件とされた場合,
当該不合理な労働条件の定めは無効になる


定年後再雇用の雇用条件について
労使でよく話し合い,
職務の内容等に見合った
賃金額を設定することが無難

以下,くわしくお伝えします。

改正高年齢者雇用安定法により,
企業には,65歳までの継続雇用確保措置をとることが,
義務付けられました。

具体的には,
①定年の定めを廃止する,
②定年を65歳とする,
③65歳までの継続雇用制度を設ける,
のいずれかの措置を
とらなければならなくなりました。

このうち,多くの企業では,
③の継続雇用制度を
採用する企業が多いです。

これは,
①の定年の定めの廃止や,
②の定年65歳制が,
人件費負担が大きいことが
その主な理由と言われています。

そして,
③の継続雇用制度を
採用した企業において,
定年後の再雇用の場合,

従前までと勤務条件・労働条件・職務内容等が
全くかわらないにもかかわらず,
賃金額だけを減額するということがあり,
これは,労契法20条を
見落としてしまっている可能性があり,
注意する必要があります。

労契法20条は,
有期の労働契約を締結している
労働者の労働条件が,
無期の労働契約を締結している
労働者の労働条件と相違する場合に,
①労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,
②当該職務の内容及び配置の変更の範囲,
③その他の事情,
を考慮して,
不合理と認められるものであってはならないと
規定しています。

そのため,
定年後再雇用という理由だけで
賃金額を減額した場合,
他の無期の労働契約を締結している
労働者と比較すると
この労契法20条違反になってしまう
可能性があるので,
注意する必要があります。

こういった人事トラブルから,
資金繰りが悪化してしまうことがありますので,
ご注意ください。