今回は,労働法判例百選にも掲載されている,

公務員の労働基本権の保障が争われた

有名な最高裁判例である,
「全農林警職法事件」を
モデルにしたストーリーを,

紙芝居型でお伝えします

(学習の便宜を優先し,
実際の事件と異なる部分があります)

 ときは,昭和33年10月のことです。

 警察官職務執行法という,
警察官が職務執行のために

とるべき手段などについて
定めた法律の改正案が,
国会に提出されました。



こちらは,Aさんです。

 Aさんは,
当時の農林省の職員によって組織された,
全農林労働組合の役員をしていました。

 うーん,
今回,国会に提出された
警察官職務執行法は,
けしからん,まったくけしからん。

 こんな改正がなされてしまったら,
組合活動がしづらくなってしまうぞ。
こまったなぁ。

 よし,こうなったら,
反対運動を起こそう。やってやるぞ

争議行為,
つまりストライキも必要だな。

 翌月,Aさんは,
農林省前で開催された
職場大会において
組合員約2500名に対して
争議行為参加を
働きかけるなどしました。

 このAさんの行為が,
当時の国家公務員法が
禁止していた
争議行為などをあおる行為に
該当するという容疑がかけられました。

その結果,
Aさんは起訴され,
刑事裁判に
かけられることになってしまいました。

 そ,そ,そんなぁ。
おかしいだろう。

 我々,国家公務員だって,
勤労者であることには変わりないのに。

 だから,労働基本権,
すなわち,団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)
が保障されているはずだ。

 それなのに,
争議行為をあおったとして,
国家公務員法違反として,
有罪にされてしまったら,
この団体行動権・争議権が
保障されていないのとおなじじゃないか。

 こんなのおかしいぞ。
この国家公務員法こそ,
勤労者の団体行動権・争議権を
侵害する憲法違反の法律だ。

これはもう徹底的に争うしかないぞ。

 この裁判について,
第1審の東京地方裁判所で
判断されることになりました。

 いよいよ,
判決言い渡しの日になりました。

 なんと,
第1審の東京地方裁判所は,
Aさんを無罪と判断しました。

 やったー,
私の主張が認められたんだ,やったー。

 しかし,Aさんの事件は,
控訴がなされ,
東京高等裁判所で
判断されることになりました。

 そして,いよいよ,
判決言い渡しの日になりました。

 なんと,今度は,
東京高等裁判所は,
一転して,Aさんを有罪と判断しました。

 そ,そ,そんなぁ。なぜなんだー。

 これはもう,最高裁に上告するしかない。
Aさんの事件は,
最高裁判所で判断されることになり,
いよいよ,判決言い渡しの日になりました。

 あー,いよいよだ,
これで最後だから,これで決まるんだ。

 はー,どうなるかなどうなるかな。

 判決を言い渡します。

 Aさんは有罪です。

 ええー,そんなぁ。おかしいぞ。
絶対におかしいぞ。

 我々非現業の国家公務員には,
労働基本権が保障されていないとでもいうつもりなのか。

 この判決について,説明しましょう。

 憲法28条は,
労働基本権を保障しています。

 そして,公務員も,
勤労者として,
自己の労務を提供することにより
生活の資を得ている
ものである点において
一般の勤労者と同じですから,
公務員も労働基本権が保障されます。

 だったら,やっぱり,
争議行為をあおることなどを禁止する
国家公務員法は,憲法違反じゃないのか。

 たしかに,
公務員も労働基本権が保障されますが,
さらに詳しく考える必要があります。

 え,いったいどういうことだ?

 非現業の国家公務員は,
その公務員の地位の特殊性と職務の公共性から,
その労働基本権に対し
必要やむを得ない限度の制限を
加えることは,十分合理的な理由があるというべきです。

 なぜなら,
公務員は公共の利益のために
勤務するものであり,
公務の円滑な運営のためには,
それぞれの職場で職責を果たす必要があり,

 公務員が争議行為をすることは,
その地位の特殊性及び職務の公共性と
相いれないばかりでなく,

 国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか,
そのおそれがあるからです。

 また,公務員の勤務条件の決定方法についても,
考える必要があります。

 一般企業と異なり,公務員の場合は,
その給与財源は国の税金収入であり,
その勤務条件は政治的,財政的,社会的
その他諸般の合理的な配慮によって
決定されなければならず,

 国会で議論して決定されるべきものです。

 そのため,
公務員が政府に対して
争議行為を行って決定させようとすることは
的はずれであって,正常なものではありません。

 さらに,一般企業であれば,
使用者は,いわゆるロックアウト,
つまり作業所の閉鎖という対抗手段があるうえに,

 労働者としても,
過大な要求をすれば
企業がつぶれてしまって
失業してしまうという制約がありますが,

 公務員の場合は,そうはなりません。

 その他,もろもろを考慮し,
公務員の争議行為は,
公務員の地位の特殊性と
勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地から,

 一般私企業におけるとは異なる制約に服すべきです。

 むむむ,たしかに,言われてみれば,
そういう面もあるかもしれないけれど,
なんでもアリじゃないんだから。

 労働基本権というとても重要な権利を制限する以上,
せめて,なにか,代わりになる制度が必要じゃないか。

 もちろん,
非現業の国家公務員の労働基本権を制限するにあたっては,
これに代わる相応の措置が講じられなければなりません。

 この点については,
まず,特別な公務員を除いて,
一般に,その勤務条件の維持改善を図ることを目的として
職員団体を結成することや,
いわゆる交渉権も認められています。

 公務員についても,
生存権保障の趣旨から,
身分・任免を含む,
給与その他に関する勤務条件について
詳細な規定が定められており,

 さらに,中央人事行政機関として
準司法的性格をもつ人事院が
設けられています。

 人事院は,公務員の給与,
勤務時間その他の勤務条件について,
いわゆる情勢適応の原則により
国会および内閣に対し
勧告又は報告を義務付けられています。

 そして,公務員は,
個別的に又は職員団体を通じて
給与その他の勤務条件に関し,
人事院に対し,
いわゆる行政措置要求をすることができます。

 その他の理由も含めて考えると,
適切な代償措置があると言えます。

 以上のほか,
さまざまな争点がありましたが,
結論として,最高裁は,
Aさんを国家公務員法違反として,
有罪とする法律は
憲法に違反するものではないと判断します。

したがって,Aさんは有罪です。

 ええー,そんなぁ!!!!