2019年 4月 の投稿一覧

代理権濫用:紙芝居型ブログ ブログ#111

 大切なことを誰かにたのむときは,
親族であっても注意が必要です。
 
 その一例を,
紙芝居でお伝えします。

代理権濫用

Aさんは,地主で,複数の不動産を所有していました。

最近,体調が思わしくなく,また物忘れが激しくなったと自分で自覚していました。

そのため,Aさんは,管理する不動産を少なくしたいと思い,所有していた不動産のうち,アパートの売却をしようと思いました。

しかし,Aさんは,実の息子とは仲が悪く,相談できませんでした。

ただ,孫のB君は,とてもかわいがっていました。

B君です。B君は,Aさんの孫で,現在,20歳です。B君は不動産屋さんに勤務していました。Aさんは,B君にアパートの売却を任せようと思い,B君を自宅に呼びました。

 おじいちゃん,来たよー,今日はどうしたの?

おー,B君,よく来てくれた。今日はね,君に,個人的に,アパートの売却を依頼したいと思って。

ワシが持ってるアパート,売却してもらいたいんじゃ。

交渉も手続も売却金額の結締も一切きみに任せる。

ワシは親族でB君を一番信頼してるから,全部任せたい。B君にも良い社会勉強になるだろうしね。委任状とか印鑑証明とか,必要書類全部,ここに入ってるから,わたしておくからな。

>     

 おじいちゃん,わかったよ。勤務先の不動産会社で鍛えた僕の腕前を披露するよ。

 高値で買ってくれるところ探してくるから,期待して待っててね

このアパートは,市場価格で約3000万円程度でした。

Aさんとしても,このアパートは,だいたい3000万円くらいの価値があると思っていました。

ところで,実は,B君は,ギャンブル依存症でした。

そのため,長らく,カードローン・キャッシングをしては返済することを繰り返していましたが,

最近,悪徳業者から高利でお金を借りてしまい,さらに,返済が苦しくなっていました。この悪徳業者からの執拗な取立ての連絡は,すさまじいもので,B君は,精神的にも,追い詰められていました。

 あー,困った困った,最近,借金の督促がすさまじいよ。怖くてしょうがない。最近は職場にも電話来るようになっちゃって。はー,まずいなー。

悪徳業者です。

もしもし,Bさん,わかってますよね。さすがにそろそろちゃんとしてくれないと,どうなるか,わかってますよねぇ。

 そうだ,Bさん,先日,おじいさんから,不動産の売却頼まれたって,言ってましよね。

 じゃあ,こうしましょう。

 その不動産,市場価格の2割,つまり600万円で売ってくださいよ。

 そしたら,その600万円と,市場価格との差額が,ちょうど,Bさんのうちへの借金と同じくらいですから,これでチャラってことでもううちから連絡することもなくなりますから。

 ええ,そんな,それじゃあ,安すぎますよ

 なにぃ,借金の返済もしないでなにえらそうに言ってるんですか。

 ひ,ひえぇ。す,すいません

 こうして,B君は,悪徳業者の提案に従い,600万円をうけとり,アパートを売却してしまいました。

 B君は,Aさんに報告にいきました。

 おじいちゃん,例のアパートなんだけど,600万円でしか売れなかったよ。

 はい,これ,600万円,ちゃんと渡したからね。

 ええ,そんな,さすがに600万円は安すぎるじゃろ。

 全部任せるとは言ったけれども,600万円だったら,わしは売らんよ。

 でも,もう売却済みで,登記も移転しちゃってるんだ。

 な,なにー。じゃあ,ワシが直接,買主に連絡して,元に戻してもらう。そんな非常識な話があるはずがない。先方の電話番号を教えなさい。

 プルルル

 もしもし,今回,アパートを売ったAですがね。代金額600万円だなんて,安すぎるでしょう。非常識じゃないですか。600万円はすぐに返しますから,アパートの登記を戻して下さい。

 Aさん。あなた何を言ってるんですか。どうして600万円が安すぎるなんて断定できるんですか。近隣にはまったく同じ建物なんてないんだから,唯一無二なんですよ。しかもね,最近,となりの敷地の地主から,アパートの建物が越境してるなんて言われて,裁判起こすなんて言われちゃってるんですよ。

とにかくね,こっちはね,ちゃんとあなたの委任状とか,印鑑証明書とか,必要書類は全部確認して,しっかりと手続をしてるんですよ。

 この書類は全部,本物ですよね?あなたが,Bさんに全部任せると言って任せたんですよね?だったら,取引は有効じゃないですか。そんなこと,常識でしょ,ガチャ

 切られてしまった。困った。しかも,たしかに,向こうの言うことは正論かもしれん。それに,まともに,話すらできない。どうしたものか

 そうだ,弁護士さんに相談してみよう

 こんにちは。今日は,どういったご相談ですか?

 Aさんは事情を説明しました。

 なるほど,それは困りましたね。というのは,

 Aさんが,B君に,アパートの売却をすべて任せたこと自体は間違いないとのことですと,

代理人の権限の範囲内の売却ですから,それは有効な売買が行われたことになります。

 相手方の立場にたってみると,正式な代理人から,代理権の権限の範囲内で,取引をしているので,相手方のその取引が有効に行われたという信頼は,保護する必要があるんです。

 やっぱりそうなんですか。私が,Bのやつに,すべてを任せるという判断が間違っていたということでしょうか。

 そうかもしれませんねぇ,買主を見つけるところまでは任せるけれども,最終的な金額の決定であるとか,契約締結までは,任せない方がよかったですね。

 しかし,それにしても,変ですよね。600万円で売却するなんて,なにかウラがあるはずです。

 この点,B君は,やはり,なにも語ろうとしないですか?

 そうなんです。なにも言わないんですよ。とにかく買主を必死に探したけど,600万円でしか売れなかったの一点張りで。

 なるほど,そうなのですね。先ほど,私は,相手方が,正式な代理人との間で,代理権の範囲内で,有効な取引が行われたという信頼を保護する必要があると言いました。

ただし,もし,その相手方に特別な事情,つまり,この取引が有効に行われたという信頼の保護が不要な場合は,その取引は,Aさんに効果が発生しないことがあります。

たとえば,代理人がその代理権を濫用して,代理人のために取引を成立させたことを,取引の相手方も知っていた,などの場合です。この場合には,その取引は,本人に効果が帰属しなくなるのです。

 なるほど,そういった状況であることを立証できればいいのですね。Bのやつが,自分のためにアパートを売却したことを,先方も知っていたという場合か。でも,Bのやつは何も言わないし,相手方はまともに話もできない状況でして。

 そうでしたか。困りましたねぇ。

 プルルル お,電話だ。先生,ちょっとすいません。もしもし,え,警察,え,事情聴取ですか,わかりました,伺いますけど,どういった内容ですか?ええつ,アパートの買主の悪徳業者が逮捕された,ええっ,Bのやつとグルになって取引を成立させた,そうだったんですか。わかりました。

 先生,今,警察から連絡が入りまして,なんと,アパートの買主の業者,Bのやつが借金があることを利用して,Bとグルになって,格安で取引を成立させたらしいんです。別件の捜査の過程で,たまたま判明したみたいです。

 おお,そうだったのですね。それでしたら,代理権濫用であることを,相手方の業者も知っていたということですから,このアパートの売却は,なかったことにできるかもしれませんよ。

 やったー,これでアパートを取り戻せるかもしれない!!

錯誤:紙芝居型ブログ ブログ#110

 民法には「錯誤」という法律があります。

 わかりやすくお伝えするため,
紙芝居にしてみました。
 

錯誤

 こちらは,A君です。

 A君の両親は,犬が大好きで,A君も小さいころから,犬に囲まれて育ったため,A君も犬が大好きでした。A君は,そのような環境で育ったため,将来はペットショップを経営したいと思っていました。

 A君はとても気の優しい正確で真面目ですが,少し,おっちょこちょいなところがありました。

ときは,2020年6月になりました。

A君は,大人になり,ペットショップの開業資金をためるため,必死に働き,ようやく,念願のペットショップを開店することができました。

 やったー,ようやく,念願のペットショップを開店することができたぞ。

 がんばるぞ。

 さてさて,どんな特色のお店にしようかな。

 そうだ,最近,このあたりは,外国人の方が増えてきたから,外国人の方も入りやすいお店にしよう。

 値段も,アメリカのドルでの価格を表示しておこうっと。

 こちらは,ショコラと名づけられたミニチュアダックスフンドです。

 よし,ショコラの値段は,アメリカのドルで1000ドルにしよう。

 しかし,なんと,A君は「$」と書くべきところを「¢」と書いてしまっていました。

 ある日,お客さんがやってきました。

 こちらは,B子さんです。

 きゃー,このミニチュアダックス,かっわいいー。あ,すごい目が合っちゃった。これはもう運命だわ。今すぐ,この子,引き取りたいわ。

 あれ,値段が1000セントって書いてあるけど,これ,明らかに1000ドルの間違いよね。でも,それならラッキーだわ。

 すみません,この子,買わせてください。

 今,手持ちのお金がないので,1週間後でいいですか?

 では,この場で契約書を書いてもらえば,このまま引き取ってもらっていいですよ。

 こうして,ショコラは,B子さんに引き取られていきました。

 一週間後,B子さんがお店にやってきました。

 こんにちは。先日,契約した代金,持ってきました。はい,1000¢です。

 ええっ!!1000ドルの間違いですよね。

 え,なに言ってるんですか,契約書見てくださいよ。ちゃんと単位は¢って書いてますよ。

 ええー,しまった。すみません,これ間違いなんです。1000¢なんと安すぎるじゃないですか。1000ドルの間違いなんですよ。

 えー,そんなこと知りませんよ。あなたが間違ったからいけないんじゃないですか。私も間違いだとは思いましたけど,契約を結んだ以上は,今さら違うなんて言えないでしょ。

 いやいやいやいや,常識で考えてくださいよ。書き間違いだってわかるじゃないですか。代金払えないなら返してください。

 嫌です。あなたが悪いんじゃないですか。ショコラは,もう,うちの家族なんです。価格を書き間違えたあなたが悪いんです。代金は置いていきます。失礼します。

 あー,困ったぁ。帰られちゃったよ,どうしよう。そうだ,弁護士の先生に相談してみよう。

 こんにちは。今日は,どうされましたか?

 先生,お世話になっております。実は,かくかくしかじかで。

 価格の単位をまちがってしまったんですよ。

 なるほどぉ。そうだったのですね。

そういったケースは「錯誤」と言うんです。意思表示に対応する意思を欠くという場合ですね。今回のケースでいえば,1000ドルで販売しよう意思はあるが,1000セントで売る意思はなかったので,意思表示に対応する意思を欠いていますね。

 民法では,このような場合,錯誤が,法律行為の目的,及び取引の社会通念に照らして,重要なものである場合は,取消しを主張できる,と定めているんです。

 この場合の値段の間違いは,重要ですし,相手方もわかっていたわけですから,裁判でも取消しが認められると思いますね。

 そうなんですね,やったー,わーいわーい,たすかった。

 こうして,A君は,再度,B子さんに丁寧に,話をしたところ,B子さんも立場を理解し,1000ドルを払うことで,お互いの納得が得られ解決となりました。

 それから1か月後のことです。

 こちらは,モモと名付けられた,ミニチュアダックスです。このミニチュアダックスは,血統書のない犬だったにもかかわらず,アルバイト店員が,間違って,血統書付きの犬であるとの表示をしてしまっていました。

 ある日,お客さんがやってきました。

 こちらは,Cさんです。

 お,このモモっていうミニチュアダックス元気がいいなぁ。お,血統書つきなんだ。

 店員さん,すみません,自分,血統書付きのミニチュアダックスのブリーダーになって,血統書付きの子犬の繁殖をしたいので,血統書付きのメスのミニチュアダックスを探してるんですけど,この子なんか,どうですかね。

 あー,そうなんですね,はい,このモモは,とても元気で,オススメですよ。

 そうなんですね,じゃあ,この子,お願いします。

 はい,わかりましたー。血統書は郵送しますね。

 こうして,Cさんは,モモの代金を支払って,引き取りました。

 一週間後のことです。

 あれれー,しまったー,間違えちゃってた

モモちゃん,血統書がない犬だった。よく見たら,これ違う犬の血統書だった。しまったぁ。間違えちゃったなぁ。

 まあでも,もう売買契約はすんでいるから,もう今更,引き取ってくれなんて言う人はいないだろうから,謝って許してもらおうっと。

 それに,契約書には,別に,血統書のことはなにも書いてないから,それが契約条件というわけじゃないしな。

 こうして,A君はCさんに事情を説明しました。

 いやいやいやいや,あなたねぇ,謝ってすむ問題じゃないでしょ。血統書ないんだったら,血統書付きの子犬の繁殖ができないんだから,意味ないですよ。代金返してくださいよ。

 いえいえ,もう契約は済んだわけですし,お引渡しも済んでるわけですから,返金はできません。

契約書には,血統書付きが条件なんて,書いてないですからね。

血統書が契約条件だというなら,契約書に書いておくべきでしょう。

契約書に書いてあるのは,私があなたにモモを引き渡すことですから,ちゃんと引き渡しましたから,何の問題もないじゃないですか。 

 こうして,両者は対立し,お互い,一歩も譲りませんでした。

 そこで,A君はまた,弁護士に相談に行きました。

 こんにちは。今日は,どうされましたか?

 どうも先生,お世話になっております。

 今日は,かくかくしかじかという状況でして。

 A君は,弁護士に事情を説明しました。

 なるほど,そういった状況でしたか。

 それはなかなか難しいですねぇ。

 そのような状況は,いわゆる動機の錯誤という状況です。

 つまり,モモちゃんという犬を買うこと自体に錯誤はないのですが,その動機,つまり,血統書付きの子犬の繁殖をするためという,法律行為の基礎となる事情,つまり動機に錯誤があることになります。

 このような動機の錯誤は,その動機が相手方に表示されていた場合には,錯誤による意思表示として,取消しの対象になるんですよ。

 今回,買主は血統書付きの子犬の繁殖が目的と言われていたとのことですので,動機が表示されていたと言えると思います。そのため,裁判になった場合は,錯誤を理由に,取り消されてしまう可能性が高いですね。

 この錯誤と認定された場合は,血統書のことが契約書に書かれているかどうかは,関係ないんです。

 ええー,ていうことは,僕が負けちゃうっていうことですかね。

 残念ながら,その可能性が高いですね。

 ええー,そんなぁー