労働事件実務関係

月における30分未満の時間外労働・残業代の切り捨て:ブログ#305

 昭和63.3.14基発150号の解釈例規は、月における30分未満の時間外労働・残業代の切り捨てをOKとしていますが、

 水町教授の詳解労働法2版674頁では、現代ではこれは労基法違反と解釈しておられ、

 その理由は、①労働者にとって不利な労働条件を強行的に禁止している労基法の性格②情報技術の発展により端数処理も事務的に煩雑とはいえないとのこと。

 なるほど、理由付けは、たしかに、と思いますし、解釈例規は法律ではないので立法手当は不要と思われますが、現実問題、解釈例規の影響力は大きいと思うので、新しい解釈例規で統一してもらえるほうが実務としては、ありがたいように思いました。

 切り捨てはしない方向に変更するのが、無難ですね。

 ちなみに、細かい話ですが、水町教授の詳解労働法2版790頁には、改正労働安全衛生法66条の8の3により、「すべて」の労働者の労働時間の状況を、事業者は把握しなければならないとされたとありますが、

 実は、細かい話ですが、条文的には「次条第一項に規定する者を除く」として、高プロの対象者を除外していることに気づきました。

 これは、おそらく、高プロの対象者は、労基法41条の2第1項3号により「健康管理時間の把握義務」が課されていることがその理由なのかなと思いました。

 これらの改正によって、労働時間把握・管理が、法律上も明記されましたね。

(今までは、平13・4・6基発339号(いわゆる適正把握基準)平29・1・20基発0120第3号(いわゆる適正把握ガイドライン)に記載されていました)

近年の労働判例:福山通運事件:最高裁R2.2.28:ブログ#304

 よくあるご質問で、

「従業員の仕事のミスで第三者に会社が損害賠償した場合でも、 従業員に対して損害賠償を要求することは できないですよね?」というご質問はよくあるところ、 

 たしかに、裁判上認められにくい感はあるものの、 理論上はあり得ないわけではなく、茨城石炭商事事件(最高裁S51.7.8)は『使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して求償することができる』としています。

 そして、逆に、福山通運事件のように、先に、労働者が第三者に損害賠償したあとに、労働者が使用者に逆求償するというケースについても、 最高裁は、『被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,上記諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができるものと解すべき』としましたので、

 ということで、結局、第三者に対して、労働者が先に損害賠償をした場合も、使用者が先に損害賠償をした場合も、どちらも「損害の公平な分担という見地から相当と認められる額」について、どちらも求償できるということになります。

 ただ、結局のところ、ケースバイケースですし、必ずしも求償が認められるとは限らず、さらには、その金額の認定は難しいことが多いです。

 ちなみに、この福山通運事件は、民法715条使用者責任に関する判例であると同時に、労働判例としても重要であり、水町先生の詳解労働法の第2版にも掲載されていますね