今回は,
労働法判例百選に掲載されている,
時間外手当に関する判例として有名な,
最高裁平成6年6月13日
第二小法廷判決
「高知県観光事件」をモデルにしたストーリーを,
紙芝居型で,
お伝えします。
こちらは,Xさんです。
Xさんは,タクシーの運転手をしていました。
毎日を一生懸命,がんばっていました。
>
Xさんの勤務時間は,
午前8時から翌日の午前2時まで,
休憩は2時間でした。
>
そのため,Xさんは,1日,
14時間勤務していました。
>
Xさんのお給料は,タクシー料金の売上高の歩合で決まる,完全歩合給制でした。
>
Xさんは,こう思っていました。
うちの会社じゃなくて,
もし,普通の会社だったら,
1日8時間を超えて働いた場合とか,
深夜の間帯,つまり,
午後の10時から翌朝の午前5時までの
時間に働いた場合は,
割増賃金がもらえるけど,
うちの会社はそういうの,
一切もらえないんだよな。
なんだか納得いかないな。
よし,社長に,交渉してみよう。
>
このように,Xさんは,
完全歩合給制の会社ということで,
1日8時間の法定時間外や
深夜時間の割増賃金は,
もらっていませんでした。
Xさんの会社では,
この歩合給の中に,
割増賃金が含まれている,
とされていました。
>
他方,こちらは,Y社長です。
Y社長は,Xさんが勤務するタクシー会社の社長です。
昨今の厳しい情勢の中でも,
毎日一生懸命工夫を重ねていました。
>
Xさん,なにを言ってるんですか。
あなた,わが社が,
完全歩合給制の会社だって,
わかったうえで,
それでもよいから
うちで働きたいと言って,
うちの会社に入ってきたんじゃないですか。
>
わが社では,
歩合給のなかに,
法定時間外や深夜時間の
割増賃金も含まれているんです。
あなたは,
それをわかって
就職したんですから,
今さら何を言ってるんですか。
>
Xさんは,
このY社長の説明を聞いても,
納得ができませんでした。
そこで,なんと,
裁判を起こしました。
こうして,
XさんとY社長の戦いが
始まったのです。
この裁判において,
Xさんはこう主張しました。
>
労働基準法という法律で,
法定時間外や深夜時間の
勤務に関する割増賃金は,
ちゃんと支払わなければならないって,
法律で決まってるんですから,
ちゃんと払ってくださいよ。
>
他方,Y社長は,
こう反論しました。
いやいやいやいや,
何を言ってるんですか。
うちの会社は,
完全歩合制で,
この歩合のなかに,
法定時間外や深夜時間の
勤務に関する割増賃金も
含まれているんです。
>
それをわかって,
Xさんは入社してきたんですから,
そういう合意が成立しているんです。
だから,今さらになってから,
やっぱり,割増賃金を払えなんて,
おかしいでしょう。
だったら,最初から
うちに就職しなければよかったんですよ。
二人は,真っ向から対立しました。
>
そして,いよいよ,
判決言い渡しの日になりました。
静粛に。判決を言い渡します。
裁判所としては,Xさんの請求を認めます
>
Xさんは大喜びです。
やったー
>
Y社長は,愕然としました。
ええー,な,な,なぜ,わが社の主張が認められないんですか。
>
静粛に。このように,判断した理由を述べます。
>
まず,労働基準法という法律で,
割増賃金は,
しっかりと払わなければならないことが
決められています。
そのため,
もし,仮に,
会社と従業員が,
割増賃金は払わないという合意をしても,
そのような合意は無効です。
>
そのうえで,次に,
会社の主張では,
歩合給の中に,
割増賃金が含まれている
という主張について,判断します。
裁判所としては,
この会社の主張は,認めません。
>
なぜなら,まず,
今回のケースでは,
Xさんが法定時間外に勤務したり,
深夜時間に勤務しても,
歩合給の額が変わりません。
>
そして,Xさんの場合,
完全歩合給のお給料のうち,
どの部分が,
通常の労働時間の賃金に当たる部分で,
どの部分が割増賃金に当たる部分なのか,
判別することができません
>
これらの事情からすると,
この歩合給の支給によって,
労働基準法が規定する
割増賃金が支払われたと,
認めることができないからです。
>
以上より,会社は,
Xさんに対して,
割増賃金を支払いなさい。
>
そ,そ,そんなー