「30分ミニ社員研修教材」
従業員の賠償問題,思わぬ落とし穴があったりします。
紙芝居にしてみました
賠償予定の禁止
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こちらは,A社長です。
A社長は,もともと,居酒屋の雰囲気が好きだったことから,今では,居酒屋を3店舗経営しています。
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A社長,なにやら困った顔をしています。
はーあ,こまったなぁ。最近,お店でトラブルが続いているんだよなぁ。ただでさえ,人手不足だから,なんとか少ない人員でお店を切り盛りしてるのに,シフト入ってて,ドタキャンするアルバイトとかいるんだよなぁ。
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それにさ,ドタキャンならまだしも,いきなり,来なくなっちゃうアルバイトもいるんだよなぁ。無断退職されたら,こっちが困っちゃうよ。
いきなりだから,事前に準備もできないのが一番困っちゃうよ。
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あとさあ,こないだなんて,いきなり,お客さんとケンカして,お客さんを殴っちゃうアルバイトには,ほんと困ったね。理由はどうあれ,手を出しちゃダメでしょ。それもう犯罪でしょ。
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しかもさ,怒りがおさまらなくて,お店のお皿10枚叩き割っちゃうんだもん。ほんと困っちゃうよねぇ。
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こうなってくると,やっぱり,なにか対策が必要だよな。
もうなんか無法地帯になってきちゃったもんな。
さてさて,いったい,どうしようかな。
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そうだ,やっぱり,そういう悪いことをしたら,お金を払わせよう。損害賠償だな。ペナルティで,罰金みたいに,お金を払わせよう。
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たとえば,シフトをドタキャンしたら,ペナルティで,1000円にしよう。
こうしたら,ドタキャンしなくなるだろう。
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あと,急にお店にこなくなったりして,無断退職する人は,給料一か月分にしよう。そうすれば,その月の給料払わなくてよくなるから,手続もラクになるし。
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お客さんに迷惑かけるのは,会社の信用にかかわるし,もしも炎上したりしたら,お店が倒産する危険もあるから,それは100万円にして,絶対,させないようにしなきゃだな。
こうして,A社長は,新しいルールをつくって,社内に周知徹底させました。
そして,ある日のことです。また,アルバイトが無断退職してしまいました。
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またやられたー,まあでも,今回はちゃんとペナルティの制度,つくっておいてよかったわー。無断退職者は,給料一か月分の損害賠償だから,これで無断退職したバイトには,お給料払わなくていいわ。少しだけ,せいせいしたわ。
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それから2か月後のことです。
こちらは,会社の事務員さんです。
社長,大変です。先日,無断退職したアルバイトの方の弁護士から内容証明郵便が届きました。
最後の月のお給料を,ちゃんと払えと書いてあります。
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ええ,いったいどういうことだ。ちゃんと,ペナルティの制度を作ったんだから,払わなくていいはずだろう。それが嫌なら,無断退職しなければいいんだから。そもそも,無断で退職するなんて,非常識極まりない話なのに。とりあえず,こっちも弁護士に相談してみよう。
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こちらは,弁護士さんです。
こんにちは。
今日はどういったご相談ですかな。
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はじめまして,先生,すみません,かくかくしかじかでして。
A社長は,事情を弁護士に説明しました。
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なるほど,そうでしたか,それは,難しい問題になりますな。
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というのは,労基法16条という法律に,賠償予定の禁止,という法律があります。この法律によって,労働契約の不履行について,あらかじめ,損害賠償額を決めておくことはできない,というルールになっているのです。
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今回のケースでは,労働契約の履行として,ちゃんと出勤することや,無断退職しないことや,従業員としてちゃんと行動することについて,これに違反した場合,あらかじめ損害賠償を定めるものですから,これに該当する可能性が高いと思われます。
ええー,そうなんですか。では,従業員が悪いことをしても,会社はなにも請求できないということなんでしょうか。
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いえ,そういうわけではありません。
あらかじめ,決めておくようなことが許されないだけで,実際に,従業員が重大なトラブルを起こして,法的に損害賠償義務を負う場合に,その時点になってから,損害賠償を要求することは可能です。
そうだったんですか,事前にペナルティ額を決めるのはダメなんだ。まいったなー。
てことは,先生,これ,裁判になったら,わが社が負ける可能性があるっていうことですか。
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はい,その可能性は,ありますな。
ええー,そんなー